市街地の真ん中の
 発掘現場に
 古い溝が出てきた

 大人の背丈より
 深く
 飛び越えられぬほどに
 広い
 
 古代の
 防御のための溝だというが
 内側にいる人を
 外に出れないようにするための
 溝を
 掘ったこともある

 隔離のための溝と
 防御のための溝は
 似ていた

 その違いは
 どちらが
 内側で
 どちらが
 外側なのか
 による
 
 権力者にとって

 右側から左側への
 越境者にとっては
 右側が内側で
 左側が外側

 左側から右側への
 越境者にとっては
 左側が内側で
 右側が外側

 逃亡者
 あるいは 
 侵入者
 
 権力者は
 どちらを
 恐れていたのか
 その時

 そして いつ
 溝は
 埋まったのか

 埋まった溝の上に建つ家に
 今 あなたは住んでいて
 そこでは
 永遠の
 他者が
 待っている

 夕闇に光る
 無数の街の灯
 埋められた
 溝の上の暮らしよ

 何故
 溝は
 埋まったのか
 
 どうやって
 溝を
 埋めるのか

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繋ぐ

―下村誠13回忌ライブ 
BOUND FOR GLORY 2019を見て 下村さんにー

もし歌に手足が生えていたら
君みたいじゃなかったろうか、と思う
雑踏の中を君が歩く時
その帽子が
ゆれながら行くさまは
音符がふわふわと
飛んでいるのを見るようで
まるで君自身が通りに流れる
歌みたいだと思ったよ

いつも誰かへの贈り物を
隠し持っていた君
あげるものが何もない時は
店のテーブルのナプキンに
詩を書いて
あげたりしてた
別にイケメンでもないのに
そんな行為が
気障にならなかったのは
君自身が歌だったからだと
今なら分かる
君は人のフリした歌だったんだ

ぼくらの分からない
「歌の国」の掟には
歌が人でいられる時間が
きっと決められていて
その時が来たからなのか
それとも
人としての自由を
使い果たしたからなのか
君はあっけなく消えた

預かっといて、と忘れたままの
帽子とギターと
ハーモニカホルダー
でもいつしかそれも
失くしてしまって13年
今日、ようやく
ぼくは君の正体に気がついた
君は人のフリした歌だったんだ
歌は口から口へと人を繋ぐ

そうか 
君が人の形をしていた時に
やってたことってそれだったんだね。

 

                        2019.11.17

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うめる

   Ⅰ.

   埋める
   死者を埋める
   犯罪の証拠を埋める
   ハイエナがかすめ取った
   骨付き肉を埋める
   盗品を埋める
   ゴミを埋める
   サラリーマンが
   違えた約束を
   酒の席で埋める
   予定を埋める
   クロスワードパズルのマスを
   文字が埋める
   考古学者が
   調査済みの現場を埋める
   熱い風呂を
   水で埋める
   SNSのコメント欄を
   ネトウヨが
   ヘイト発言で埋める
   株の損失を埋める
   命令の後の沈黙を
   従順な
   返答が埋める
   海を埋める
   珊瑚を埋める
   ダンプがバックして
   土砂が
   青い
   青い海を埋める
   
   何を弔った?
   何を隠した?
   どれだけ食った?
   何を取った?
   何処に投げた?
   どれだけ酔った?
   工程通り?
   どんなスローガン?
   何が分かった?
   ぬるくない?
   どんなフェイク?
   何に使った?
   誰の言いつけ?
   何を殺した?
   何色になった?

   Goddamn.

   私たちは生める
   詩を
   歌を
   物語を
   絵を
   新しいアイディアを
   互いの理解を
   まだ若い父親が
   震えて待つ
   産院の朝を
   生める
   赤ん坊を
   パンを
   次の食事を
   サラダボウルの淵
   の
   淡い光
   ミニマルな日々の
   点描の
   タブローを

   Ⅱ.

   うめる
   にわとりはたまごを
   かみさまはうみを
   うみたてのたまご
   うみたてのうみ
   うめたたまご
   うめたうみ
   うめたてられたうみ
   うみすてられたたまご
   うめる
   わたしたちはうめる
   こわされたものを
   ねじまげられたものを
   こわれたたまごを
   こわされたうみを

   うめる
   なんどでも
   うむ
   うめる
   わたしたちは
   うみをまた
   うめる
   うみをまだうめる
   うみを
   またうむ

   うみはまたうまれる

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ダム


風が吹かなければ
澄んだ底の方に
郵便ポストが見えるかも
学校や床屋や
めし屋
それと古い写真館とか

と すると
この翡翠色の大きな水は
沈んだ村の
墓標なのかもしれなくて
だからぼくは
会いにくるのかな


前世で故郷だったかもしれない
この美しい
大きな水に

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死んだP.C(SX2885-54F)に


例えばファミレスを居酒屋代わりにして
昼間から一緒に飲んでいた友人が
突然、胸を押さえ倒れたみたいに、お前は息絶えた。

一度だってオレはお前を労ったことなど無かったし
お前だってオレに何かの証を立てたことなどなかった。

だが
こうなってみると
結局、
期せずして
二人は友達だったのだ
朝も、昼も、夜も
オレはお前に語り続けた
お前の「向こう側」にいる誰かなどにではなく
文字通りお前に。

手紙を書き、写真を見せ、好きな音楽を教え
共に歌った。

悪意に怯え、不実に怒り、共にユーモアに笑った。

知らなかったのだ いつまでも若いつもりでいる
オレの隣で
こんなにも早くお前が年老いることなど。


知らなかったのだ 饒舌なビートニクスみたに喋る
オレのことばを
お前が余裕綽綽でうけとめてくれていたのではなかった
ということを。

最後にお前の目に映ったのは
オレが撮った
夕焼け空に飛行機雲の直線が
淡くほどけていく写真。

ドクター曰く
「おうちにタバコを吸う人はいませんでしたか?」

セカンドオピニオン曰く
「加齢により 管が弱くなっていたのでしょう。」

昨日、妻に前抱きにされたお前が
オレには
遺影か骨壺のように見えた。

さよならP.C
さようなら

こういしてイニシャルだけ書くと
なんだか古(いにしえ)の
ジャズミュージシャンみたいだな。

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八月の菓子


誰も食べたことのない菓子の味を知るためには
食べたことのある人から聞くしかなくて
でも近ごろでは食べたことのある人は段々に減って
その味がどんなものであるかはようとして知れない

 
思えば自分が子どもの頃は
食べたことのある大人が周りに沢山いて
麦酒<ビール>なんぞを飲んだ折りなど
こちらから聞かずとも語ってくれたもの

 
ある叔父は口をすぼめて目を固く閉じ
あれはすっぱいものだと言い 
ある叔父は顔を真っ赤にして
あれは辛かったと涙目に語った
何故だが中には鼻息荒く
何をそんなに誇るところがあるのか
その頬をとろかすような甘さでも思い出すのか
いじきたなそうにニヤニヤする人もいた

 
無表情で黙っている人もいた


誰も食べたことのない菓子の味を伝えるために
また聞きのことばを誰もが喋る
また聞き
孫引き
ひ孫引き 
デマ


あれは酸っぱい らしい
いやあれは辛い らしい
いやいやあれは甘い らしい そして
ほんとうはすごく美味しい らしい と
 
 
目を固く閉じたりせず
涙目にもならず
いじきたなそうなニヤニヤ笑いもなく

誰も食べたことのないその菓子はどの家にもあって
もう何年も戸棚の奥にしまわれている
誰も食べたことのない菓子の味を知りたければ
食べてみればいいじゃないかと
声高に言う人が近頃じゃ段々に増えて
腹ペコの子供が夕暮れ 皿に手を伸ばす


誰も食べたことのない菓子の味を知るためには
食べたことのある人から聞くしかなくて
でも近ごろでは食べたことのある人は段々に減って
その味がどんなものであるかはようとして知れない

誰も食べたことがない菓子の味を
これから どうして伝えよう
いつもは戸棚の奥の暗がりにしまわれていて
毎年八月にだけ取り出してきては皆で眺めている


あの菓子の味を
 

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南極の氷


海洋探査から帰って来た友からのみやげだと
息子が南極の氷を貰って来た
南極の氷と冷蔵庫の氷の、何処が違うのか?と聞くと
何でも三千万年前の空気が
入っているのだと言う。

見ると確かに細かな気泡が
つぶつぶつぶつぶ一杯あって 
水につけるとじゅわーと音がし泡が 昇ってきては 
その三千万年前がはじけて鼻孔をくすぐる筈だと宣(のたま)う。

さてどうして使ったものかと妻に問えば
コーラに入れようと言うのだが
それでは三千万年前のじゅわーと
コラーのじゅわーが混ざってしまって何だかとてもおもしろくない。

やはりウィスキーのロックだと
グラスを出して
ハタと思うに
マンモスの毛やペンギンの糞
タロとジロの涎やらが入っていないだろうか?
〈シロクマの目ヤ二とか〉

我が酒神、大いに尻ごみて
髭のボトルを棚に戻すと
風呂が熱すぎた時にでも入れればいいと考えたが
南極の氷が溶けると海面が上昇し
やがて大陸が沈むのだとの、いつかのラヂオを思い出す。

やはりウイスキーのロックだ、と気を取り直し
氷ぶち込みトクトク注ぎ 
黄金(こがね)のグラスに耳を当てれば
氷の中の三千万年はじゅわーではなくピキピキピキピキ。

それはまるで大きな伽藍が倒壊する時の
小さなひびが徐々に徐々に広がる音。

聞くほどにドキドキしてきて
グラスのウイスキーをがぶりと飲めば
妄想のオーロラが脳内に現れかけたその矢先
点けっぱなしのテレビの天気予報から
明日は季節外れの春の陽気と、アナウンス。

すわ、温暖化、と、やにはグラスに指突っ込み
急いで氷を救出すると、
また冷凍室に戻してバタンと戸を閉めたのだった。

以来、
夜毎、気が付くと
エコロジストの顔つきで
冷蔵庫を開けては確かめている
南極の氷。

ピキピキピキピキピキピキピキピキ
ピキピキピキピキピキピキピキピキ。

 

 

   2018 3.4

 

 

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豆花(ドウファ) 


初めてなのに
見覚えのある空が広がっていた
見覚えのある笑顔 
花 ざわめき

〈空に吸われし 
天燈の群れ 〉
 
ことばを知らないから
幼児に戻り
故に
 目もまた
幼児の目になる

市場の
色が
味が
匂いが
音が
一斉に語りかけてくる 君は誰だ?

階段で
居眠りする犬
水彩の
濡れた
海が見える旅の茶屋で
口中に
甘い原色の花が咲く

懐かしいのに
見知らぬ空が広がっていた
その暮れ色と
煙の匂い


口中に咲く
甘い甘い豆花(ドウファ)
 

 

2018. 1.3 台湾 九份にて。

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道を歩いて来たつもりはない
ただ歩いている足元を見つめていただけ
いつも見る足跡は今付けたただ一つ
道なき道を行ったとか
その足跡が道になったとか
そんなカッコイイ話じゃない
現に振り返れば初めの一歩は風雨に晒され
今は消えていて
微かに昨日くらいからの足跡が
消えそうに残っているだけ

道を歩いて来たつもりはない
ただ歩いている足元を見つめていただけ
この一歩の次はどちらへ
いつも迷っているのは次の一歩
ただ誰かが敷いた道を行くにせよ
歩くのは自分自身 この足 この足元の
線になることを拒否した一つの点 
だが その点が
いつしか地面から剥がれて
蝶のようにフワフワと舞い始めた

道を歩いて来たつもりはない
ただ歩いている足元を見つめていただけ
いつしか足は動いているのに
地上にもう足跡は残らない
自転車のペダルを漕ぐ感覚で
一足ごとにぐんぐん空に登っていく
生まれた町の 国の 星の
その表面にある 文明のひびのような
色々な道が
眼下に見えているだけ

川沿いの道 車が渋滞する道 
砂漠を貫く道 けものみち
掌に刻まれた
生命線

道を歩いて来たつもりはない
ただドスンと生まれ落ちたベッドの上から
いつか来た空への道を
いつも眩しく見上げているだけ

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その夜 ラ・カーニャで  2017.10.08

NAKED FOLK SINGERS-ギターをとって弦を張れ!-を見て
中川五郎さん 三浦久さん 若松政美さんへ


その夜のラ・カーニャは
沸騰する水を見るよう
子供の頃 キャンプファイヤーで
歌ってくれたお兄さんが
突如 現れ
あの頃の続きを今また歌い始めてくれたよう
お兄さんは年を取ったが 
ああ でも今は あの時より若い(1)

水は
西の広場の井戸から沸いた
ギターの音とことば
薬缶から"ピーっ!"と音がして
ことばから噴きあがるその水蒸気の斧が
神社の椎の木を
なぎ倒す幻をぼくは見た(2)


その夜のラ・カーニャは
水槽に水が溜まるのに見惚れるよう
細流はみるみる物語(バラッド)になって
ゆっくりと
人のたましいを満たす
年老いた旅の禅僧に
どこまでもついていく月  
ああ でも今は あの時より若い

水は
カリフォルニアの井戸から沸いた
ギターの音とことば
水槽に水があふれても
それを止めに走るひとは誰もいない
暗がりに立つ
美しい女の目から
涙がこぼれ落ちるのをぼくは見た(3)


その夜のラ・カーニャは
一杯の柄杓の水
夜勤明けのきみが 砂にまいた
柄杓の水
だがこの水は
ギターの音でもことばでもなくただの水
だが潤された砂は元の砂にあらず
砂に咲く花が
開くときの音をぼくは聞いた

その夜 ラ・カーニャで
その夜 ラ・カーニャで

 

 

(1) ボブ・ディラン 「My Back Pages」より。
(2) 中川五郎さんの「トーキング烏山神社の椎の木ブルース」に歌われる朝鮮人虐殺の加害者を労うために立てられたという椎の木のこと。

(3)レナード・コーエン 「Bird on the wire」の歌詞からのイメージ

 

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